海外連結月次決算は翌月3日に出せる ITで進化する海外子会社の管理方法 | アジア全域進出企業インタビューならヤッパン号


連結月次決算は3日で出せる ITで進化する海外子会社管理

  

連結月次決算は3日で出せる ITで進化する海外子会社管理

2018年2月22日、東京海上日動火災保険(株)、東洋ビジネスエンジニアリング(株)、(株)IIJグローバルソリューションズが共催で「海外進出企業のための危機管理実務対応セミナー」を開催した。日本企業の海外進出が加速していく中、海外子会社の管理の甘さからトラブルに見舞われることも増加しており、海外子会社に対するグループガバナンスを構築する必要性が強まってきているからだ。

第一部の基調講演では、海外でのリスク管理体制構築に詳しい、東京海上日動リスクコンサルティングの青島健二氏(主席研究員)が登壇し、海外で日本企業が直面しているリスクについて語った。海外では、贈賄が発覚して百億円以上の罰金を支払うことになった日本企業があったり、ストライキが長期化して操業が立ち行かなくなった日本企業もあるそうだ。

第二部では、海外進出、特に東南アジア進出の支援実績が豊富な日系会計事務所5社が集まり、「海外子会社管理の現状とITを活用したこれからの海外子会社管理の在り方」と題して、子会社管理に関する実施されたパネルディスカッションを行った。本記事では、そのパネルディスカッションの内容をレポートする。

海外連結月次決算は翌月3日に出せる
ITで進化する海外子会社の管理方法

■パネリスト(GLASIAOUSコンソーシアム会員企業)
朝日税理士法人 代表社員 公認会計士・税理士       山中 一郎 氏
株式会社東京コンサルティングファーム 代表取締役会長   久野 康成 氏
永峰・三島会計事務所 会計グループ パートナー      西 進也 氏
BDO税理士法人 統括代表社員 公認会計士・税理士       長峰 伸之 氏
株式会社名南経営グローバル・パートナーズ 代表取締役社長 佐分 和彦 氏
株式会社東京コンサルティングファーム 国際事業部     長坂 佳典 氏(モデレータ)

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海外子会社管理がうまくいかない要因は、コミュニケーションと数字の管理

―海外子会社の管理に課題を抱えている日本企業が数多くあります。何が原因なのでしょうか?

山中氏親会社と海外子会社との関係で一番難しいのはコミュニケーションだと思います。弊社グループでも、現地代表とのミーティングは、1ヶ月に1回はネット電話、3か月に1回は直接の面談と、積極的に話し合っていますが、お互いの立場が異なるために度々意見が衝突します。日本側は自分達の目線で「これをしてくれ」、海外は現場の目線で「そんなことできない」と利害が対立してしまうのです。

多くの中小企業の海外子会社も同様で、海外代表自らが営業、経理、人事と全て対応するため、現場の運営だけでも手一杯になります。そこに、本社から子会社管理の細かい要望がきても、目前にある業務を優先したいのは当然で、ここでぶつかり合います。現地赴任者の間で「OKY」と言う言葉がよく使われます。日本本社に対して、「おまえ、ここにきて、やってみろ」の略ですね。

本社と海外子会社では、それぞれ立場が異なるのは当たり前ですが、お互いの立場を理解しようとせず、自分たちの都合ばかりを押し付けあってしまうと、海外子会社管理はうまくいきません。

 

西氏:コミュニケーションの他に、海外子会社管理を失敗する原因となるのが、見込み数字など不正確な情報で管理することです。山中先生のおっしゃる通り、海外子会社は多忙なため、月次決算の提出が遅くなることも少なくありません。その際、日本の企画部門が、見込み売上などを現場に聞いて、その数字を元に子会社管理をしてしまうと失敗に繋がります。子会社は、業績を好調に見せたがることが多いため、見込み数字などの不確定な数字を利用すると、雪だるま式に数字が膨らんでしまいます。

 

長峰氏:そもそも決算書・帳簿が信用できないケースもあります。子会社管理ではないですが、海外法人買収のデューデリジェンスを相談いただくこともありますが、はっきり言って、デューデリジェンスをする意味はないと感じています。買収先が上場企業であればいいですが、未上場の現地企業の場合、「銀行用」や「税金用」など、複数の帳簿が存在します。国によっては「テーブルの下」を求める税務官もまだ存在するくらいですので、現地ローカル企業が管理している帳簿は信じないほうが無難です。日本企業では多くはありませんが、二重帳簿など存在する企業も少なからずあります。本社は、月次決算などで報告される数字を鵜呑みにしない方がいいかもしれません。

 

「仕組み化」と「現地化」で、連結月次決算は翌月3日までに準備できる

―海外子会社の管理のポイントは何でしょうか?

久野氏:私が思うポイントは「仕組み化」と「現地化」です。弊社もまさに海外子会社管理の体制を構築している最中ですが、日本人は3~5年で帰任してしまうため、日本人に頼った管理体制では駄目だと感じました。常に十分な管理体制を整えるには、管理業務をローカライズする必要があると思っています。弊社では、クラウド会計システムを利用して「仕組み化」と「現地化」を進め、現在では翌月3日には、グループ全体の連結月次決算が出せるようになりました。管理の「仕組み化」や、情報の確認は日本人がやりながら、実務については「現地化」していくことをおすすめします。

不正は大きく分けて3種類、抑制するためのポイントは数字の「見える化」

―海外子会社管理では、特に不正に関するリスクも大きいと思いますが、不正抑止の方法はありますか?

山中氏不正抑止には、子会社の「見える化」が重要なポイントです。お恥ずかしい話ですが、弊社の海外グループ会社でも以前、わずかですが、従業員にお金を盗まれたことがありました。振り返れば、しっかりと現地の数字を「見える化」できていれば、不正は起きなかったと感じています。

 

不正は、実行者によって大きく3種類に分けられます。経営者、従業員、組織ぐるみの不正です。先ほど長峰先生が仰っていた二重帳簿のお話は、経営者の不正。弊社がお金を盗まれたのは、従業員の不正です。中でも一番厄介な不正が、組織ぐるみの不正でしょう。

 

例えば、東南アジアでは交通違反で捕まった時など、現地の警察官から見逃す代わりに裏金を要求されるケースがあります。これはてっきり個人がやっていることだと思ったら、現地の人は、裏金は警察署全体で一度集めて、そこから全員に分配される仕組みになっていると言っていました。この例は企業の不正とは異なりますが、企業の中でも、従業員が共同で在庫やお金をくすねる不正が度々見受けられます。

 

従業員という共同体が行っているような不正を改善することは難しく、場合によっては全員クビにする必要があるかもしれません。だからこそ、そうなる前に「見える化」することが大事なわけです。完璧な仕組みでなくても、本社が数字を監視していると意識する仕組みを数箇所作るだけで、十分効果はあります。日本本社は、年に1回、もしくは月に1回の決算書を見るだけでは不十分で、その中身における情報が集まる仕組みを作るべきです。

 

 

不正のトライアングル、注意するべきは不正を行う「機会」

佐分氏:不正のトライアングルという理論があります。「機会」「動機」「正当化できる理由」この3つが揃うと不正が起こるという理論です。

弊社は中国オフィスがあるので、中国の日系企業に対して、不正が起きる要因について調べたことがあるのですが、「やろうと思えばできる」という機会の要因が大きいことがわかりました。更に驚いたのは、日本人による不正が3割もあったことでした。

工場現場の場合、監視カメラを付けて不正抑止を行っている企業もありますが、日本人の不正は、ほとんどの場合、カメラの目が届かない財務の部分での不正です。ここはカメラで解決できるものではありません。この解決策は、久野先生がおっしゃるような、子会社管理の「仕組み化」と「現地化」をすることだと思います。さらに言えば、本社に「見える化」された管理方法の「仕組み化」をすすめ、その運用を「現地化」していくことが大事だと思っています。本社が数字を見ているという認識を、少しでも持たせることができれば、不正抑止に繋がります。

弊社が参画しているクラウド国際会計サービス「GLASIAOUS」もそうですが、昨今は技術革新が進んでいて、タイ語やベトナム語で書かれた銀行のトランザクションが、日本本社でも日本語で確認できます。こうした方法を活用して、本社が子会社の財務情報を直接確認できる仕組みさえできれば、不正を行う「機会」を減らすことにも繋がるでしょう。

数字の管理だけでなく、異文化に対する理解も重要

―その他で、海外子会社管理において重要なポイントはありますか?

長峰氏:既に、数字面での管理については他の先生方から話していただいたので、私からは人の問題について話します。人の問題は、文化や宗教とつながるので非常に難しい。国によって文化も宗教も異なるので「郷に入りては郷に従え」の意識が大切だと思います。

例えば、以前に仕事でタイへ行ったとき、現地では更衣室が3つあると言われました。私も最初は理由がわかりませんでしたが、タイという国の特性上、セクシュアリティの面でいろんな方々がいるため、それに対応する必要があるわけです。こういう事情は日本人では理解し難いため、信頼できる文化の通訳者として、現地の右腕のような存在がいるといいのではないでしょうか。現地の右腕をいかに採用し、働き続けていただくのかは、どの企業も試行錯誤しなければならない部分です。繰り返し試してみながら良い人材を探す必要があるでしょう。ある意味、これも一種の「現地化」なのかもしれません。

 

海外子会社の管理のトレンドは、内製化とIT化

―海外子会社の管理の方向性は、今後はどのような方向に進むでしょうか。

長峰氏:外資企業の日本進出を支援している立場から話させて頂きます。日本へ進出する外資企業は増えていますが、その際、記帳代行など、経理業務全般をアウトソーシングいただく企業も多いです。ただ、アウトソーシングサービス自体は10年も利用し続けるような外資企業は珍しく、だいたい3年から5年で卒業し、経理業務を内製化していきます。同様に、今後の日本企業の海外進出も、進出後は徐々に、管理業務の現地内製化を進めていくことが求められるのではないでしょうか。

 

西氏:会計税務管理の観点では、ここ5年位のトレンドの1つがITの利用です。10年くらい前は、経理情報はエクセルシートをメールでやり取りするというのが主流でしたが、現在では、SAPやクラウド会計サービスなどを利用して、グループ全体の経理情報を管理する企業も増えました。子会社への導入が進んでいる理由は、勘定項目などをグループ全体で標準化することで、管理の効率化やコスト削減などのメリットがあるからです。このようなITの活用は、今後も進んでいくと考えています。

クラウドサービスの活用で、見える化、仕組み化、現地化、が進んでいく

久野氏:今後も海外進出が進んでいく中で、「連結経営」という考え方が大切になるでしょう。それぞれの国で独自に経営管理すると、経営管理が属人化してしまうため、グループ全体で一元管理することが重要です。

最近ではクラウドシステムが非常に安くなっていることもあり、今後の海外子会社管理のキーになると感じています。弊社でも、業務管理のクラウドシステムを使っていて、営業活動、見積り、請求書の発送、回収も本社で全子会社の状況を把握することができ、子会社の「見える化」ができました。他にマニュアル化のクラウドソフトも、現地法人の運営を「仕組み化」するために活用しています。

勘違いしていただきなくないのは、よく日本側が、「海外に任せているから」と任せっ放しにすることがありますが、現地に任せる部分と、本社で中央統制するべき部分と、それぞれあるはずです。管理の「仕組み化」は本社が主導で進め、実際の運用は現地で効率的に進めるのが理想だと考えています。

 

佐分氏:久野先生が仰る通り「任せている」という名の放置状態の企業も多いと思います。任せるためには、最低限本社が把握しなければいけないことや、任せた場合の管理レベルをどうするのかなど、きちんと考える必要があるでしょう。

例えば、弊社ではベトナム進出に関する相談も多くいただくのですが、その際に「ベトナム事業にいくら費やしたら撤退しますか?」と聞いています。日本側が海外事業撤退のKPIを設定しているかどうか、という質問です。親会社のベトナム投資に関するリスク判断は、海外子会社では無理な話で、そこは本社がきちんと考えるべき内容です。根幹の部分は日本本社が抑えているという前提で、「現地化」を進める必要があると考えています。

また、別の観点になりますが、日本側が海外子会社管理を徹底することで期待できるのが「グループ与信」です。現在、日本の金融機関では、国によって会計制度が違うことから海外現地法人の決算書は信用せず、海外子会社が黒字でも与信はプラスになりません。しかし、ITを利用して海外子会社の経営数字を正確に把握できるようになれば、海外子会社の業績でグループ与信を上げられると考えています。実際、既に複数の銀行と連携しながら、海外子会社を含めたグループ与信の活用を進めています。

 

海外子会社管理は状況に合わせて柔軟に

山中氏既に他の先生方が、いろいろとお話いただいたので、その上で述べることがあるとすれば、海外子会社の管理について、あるべき姿は1社1社違う、ということです。例えば、グループ全体で海外売上の比率が高い場合は、海外子会社が全体に及ぼす影響も大きくなり、徹底したリスク管理をするべきです。親会社と海外子会社の関係は、会社の文化と状況や時代の変化によって変ってくるでしょうから、それらを踏まえた上で、「自社の子会社管理はどうあるべきか」を考えて頂く必要があると思っています。

その際、他の先生方も話されている通り、GLASIAOUSなど柔軟に海外子会社を管理できるサービスも増えていますので、うまくITを活用していくことも、子会社管理の一つのポイントになっていくのではないでしょうか。

 

GLASIAOUSとは?

海外進出企業を対象とした、東洋ビジネスエンジニアリングが提供する、クラウド型国際会計アウトソーシングサービス。500社を越える導入実績を持つ現地法人専用会計システムであり、グローバルなコミュニケーションを支えるクラウドを基盤に、グローバル経営の専門家がアウトソーシングサービスを提供。現地法人、本社の業務効率化や正確、迅速な意思決定を支援します。

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