香港進出の専門家に聞く「税制適格コーポレート・トレジャリー・センター優遇制度とは」 | 進出企業インタビューならヤッパン号


香港進出の専門家に聞く「税制適格コーポレート・トレジャリー・センター優遇制度とは」

香港進出の専門家に聞く「税制適格コーポレート・トレジャリー・センター優遇制度とは」

2016年4月1日以降開始する決算期から適用できる「適格コーポレートトレジャリーセンター優遇税制度」。非金融機関の、海外関連会社からの借入金に対する支払利息の損金算入が認められることになったこの制度について、適用要件などを解説します。

香港では多くの多国籍企業が、全世界の関連会社に対する地域統括機能ならびにファイナンス機能を持つ法人を設置しています。けれども「金融機関ではない海外の関連会社からの借入金に対する支払利息は、原則として税務上損金不算入となる」という点が、そのような企業を誘致する上で大きな障壁となっていました。これを受けて、香港財政司司長の曾俊華(John TsangChun-wah)氏は、2014/2015年度政府財政予算案の中で「全世界の関連会社への地域統括機能ならびにファイナンス機能を持つ法人の誘致をさらに促進するため、税務条例上の支払利息の損金算入基準を見直し、当該基準を明確化する」と表明していました。

翌2015/2016年度政府財政予算案の中で、「適格コーポレートトレジャリーセンター(Corporate Treasury Centres、以下CTC)優遇税制度」としての運用を正式に公表し、2015年12月4日に当該税務条例草案が官報に掲載され、官民での諮問ならびに立法会での審査を経て、2016年5月26日に承認されました。これにより、2016年4月1日以降開始する決算期から「適格CTC優遇税制度」が適用されることとなりました。

 

1. 「適格CTC」に対する優遇税制度の概要

香港の内国歳入法(税務条例)第16条(2)(c)の下では、金融機関ではない貸し手に支払う利息が、香港における受取利息として課税所得を形成しない場合、税務上、借り手として支払った利息の損金算入が認められていません。日本の親会社が香港子会社への運転資本として、短期長期問わず、貸し付けを実施するケースがよく見られますが、香港内で事業を営んでいない日本の親会社が、香港子会社より稼得する受取利息は、一般的に香港源泉の課税所得とはならないため、対となる香港子会社の日本の親会社に対する支払利息は、税務上損金不算入となることが通例でした。 一方で、香港子会社からさらに海外の関連会社へ資金を寄託することで稼得される受取利息は、香港で課税される可能性があり、先述の日本側での受取利息は全額日本側で課税、つまりグループとして二重課税が発生してしまうことが、CTC拠点として香港を選択することの足かせとなっていました。これに対処するべく、適格要件に合致するCTCに対し、税務改正条例第16条(2)(g)の下、1)海外の関連会社からの借入金に対する支払利息の損金算入を認めつつ、税務改正条例第14条(c)~(f)の下で、2)海外の関連会社への貸付金から発生する受取利息などの金融財務活動から発生する課税所得に対し、利得税(法人所得税)率が半分に軽減(16.5%×50%=8.25%)されると制定されました。

 

2. 「適格CTC」の対象企業と見なされるための諸要件

「適格CTC」の対象企業は、金融機関を除く、以下の3区分となっています。

(1)各税年度ベースで、香港において「企業財務活動」のみに従事する企業
(2)「セーフ・ハーバー・ルール」を満たす企業
(3)内国歳入庁(IRD)長官の裁量による承認を得た企業 (1)の「企業財務活動」の内容は、次の通りとなっています。

◇ 企業財務活動(Corporate Treasury Activities)
a. 香港外の関連会社に対する資金の融資
b. 香港外の関連会社に対する「コーポレートトレジャリー サービス」の提供
c. 香港外の関連会社の事業に係るCTC自身が従事する「コーポレートトレジャリー取引」の遂行

次に、上記の「企業財務活動」の基礎となる「コーポレートトレジャリー サービス」と「コーポレートトレジャリー取引」の具体的な内容は、下記の通りです。

◇ コーポレートトレジャリー サービス(Corporate Treasury Services):香港外の関連会社に対する次のサービス
a. 関連会社の現金収支見積もりおよび集約や分配を含む、資金繰りの流動性の管理および関連する顧問業務
b. 関連会社のサプライヤーおよびベンダーに対する支払業務
c. 関連会社と金融機関の関係維持業務
d. 関連会社が実施する負債もしくは資本による資金調達の支援業務、および資本予算策定を含む、コーポレート・ファイナンス・アドバイザリー業務
e. 関連会社の資金運用の投資顧問業務
f. 関連会社が発行する債券や資本性金融商品に係る投資家向けのIR管理業務
g. 関連会社に対してまたは関連会社の代わりに行う保証、履行保証、スタンドバイL/C、もしくはその他信用リスク商品の提供に係る業務、および関連会社に対してまたは関連会社の代わりに対応する送金に係る業務
h. 関連会社に対する金利リスク、為替リスク、流動性リスク、信用リスク、コモディティリスク、およびその他財務リスクに係る顧問業務もしくはサービスの提供業務
i. 関連会社の合併・買収(M&A)案件の支援業務
j. 会計基準、社内の財務方針もしくは資金管理に関する法的規制について、関連会社のコンプライアンスに係る顧問業務もしくはサービスの提供業務
k. 関連会社の財務管理システムの運営に係る顧問業務もしくはサービスの提供業務
l. 上記の活動に係る関連会社のための経済もしくは投資調査および分析を含む、事業計画立案および調整業務

◇ コーポレートトレジャリー取引(Corporate Treasury Transactions):香港外の関連会社の事業に係るCTC自身が従事する取引
a. 関連会社の資金借り入れの際の保証、履行保証、スタンドバイL/Cもしくはその他信用リスク商品の提供に係る取引
b. CTC自身もしくは関連会社の資金繰りの流動性の管理を目的として、以下の金融商品に対して、CTC自身もしくは関連会社の資金を投資する取引 – 預金 – 譲渡性預金(短期預金証書) – 債券 – 手形 – 無担保社債(債務証書) – マネー・マーケット・ファンド(公社債投資信託) – その他金融商品
c. 関連会社に対する金利リスク、為替リスク、流動性リスク、信用リスク、コモディティリスク、およびその他財務リスクのヘッジ目的で締結する以下の契約内容に係るいかなる取引 – 差金決済取引 – 外国為替取引 – 為替予約取引もしくは先物取引 – スワップ取引 – オプション取引
d. ファクタリング取引もしくはフォーフェイティング取引

従って、上記項目に該当する活動に100%専門的に従事している企業は、「適格CTC」として容認される可能性が高い一方で、100%専門的ではなく多角的な業務に従事しているものの、業務の大半が上記項目に該当する活動に従事している場合の譲歩規定として、(2)の「セーフ・ハーバー・ルール」が存在します。

 

【表1】「セーフ・ハーバー・ルール」の要件内容

基準内容 単年度要件 複数年度要件
所得要件 対象企業の企業財務活動に係る利益の割合が総利益の75%以上であること 対象企業の直近3年間連続で見たときの企業財務活動に係る利益の割合が総利益に対し各年度平均で75%以上であること(※個々の状況に応じて2年間でも許容される可能性有)
資産要件 対象企業の企業財務活動に係る資産の割合が総資産の75%以上であること 対象企業の直近3年間連続で見たときの企業財務活動に係る資産の割合が総資産に対し各年度平均で75%以上であること(※個々の状況に応じて2年間でも許容される可能性有)

☆関連規定 – 税務改正条例第14C~14F条、他

さらに、セーフ・ハーバー・ルールすらも満たすことが困難である企業であっても、香港税務局へ正式に税制適格CTC申請することが可能であり、当局長の裁量による承認を得られた場合には、税制適格CTCとして当該企業を運営することも可能とされています。

 

3. 「適格CTC優遇税制度」に係るその他の適用要件

従前の香港における税務上の取り扱いでは、金融機関ではない企業が、その関連会社に対して貸し付けを実施する場合に稼得する受取利息は、「信用を供与した場所(Provision of Credit)」に基づき、課税の要否が判定されることが原則でした。ですが、税務改正条例第15条(1)(ia)および(la)の下では、「適格CTC」の対象企業の場合は、「実際に活動している場所(Deeming Provisions)」によって、所得の源泉地が決定されることが明確化されています。 さらに、先述の「適格CTC」と見なされるための要件と合わせて、次の2項目を満たすことが「適格CTC優遇税制度」の適用要件となります。1)税務改正条例第16条(2CA)の「海外の関連会社からの借入金に対する支払利息、つまりは貸し手である当該関連会社の受取利息が、香港における実効税率である8.25%もしくは16.5%以上の税率で香港外において課税されていること」、2)税務改正条例第16条(2CC)の下「香港における税務上の繰越損失を恣意的に利用するためではないこと」。

 

4. 「適格CTC優遇税制度」に係るその他の検討事項

アジアのCTC設置先としてはシンガポールが名高く、多国籍企業へのインセンティブとして既に「金融財務センター(Finance and Treasury Centre、以下FTC)優遇税制度」を制定しています。香港は後れを取っていましたが、今回の「適格CTC優遇税制度」によって、多国籍企業のアジアの地域統括財務拠点として、香港の地位強化に寄与するものと考えられます。両者の比較は以下をご覧ください。

 

【表2】香港の「適格CTC」とシンガポールの「適格FTC」との簡易比較

基準内容 香港の税制適格CTC シンガポール税制適格FTC
適用要件 - 税年度ベースで、香港において企業財務活動のみに従事する企業;
– セーフ・ハーバー・ルールを満たす企業;または – 香港税務局局長の裁量による承認を得た企業
- 税年度ベースで、支払利息を除く経費支出75万星ドル以上の事業を行うこと;
– 最低3人の専門スタッフを雇用すること;並びに 3社以上の子会社に対して、3種以上の金融サービス業務を提供すること
優遇内容 - 海外の関連会社からの借入金に対する支払利息の損金算入を源泉税無しで全額損金算入可能(当該関連会社の受取利息が香港外で香港の実効税率以上の税率で課税されていることが要件);及び
– 海外の関連会社への貸付金から発生する受取利息などの企業財務活動から発生する課税所得に対し、利得税率が半分に軽減される(香港内の同類の課税所得は通常の利得税率で課税)
- 金融サービス(財務・資金管理・調達など)業務から生じる所得や配当に対する優遇税率が、最長で10年間適用;及び
– シンガポール国外からの借入金に対する支払利息及び社債利息などの支払に係る源泉税が、最長で10年間免除
優遇税率 16.5%×50%=8.25% 17%→10%

 

ここで政府当局は、「適格CTC」に香港外子会社が存在するケースを想定し、香港外子会社からの受取配当金を企業財務活動に係る利益と認識せず、先述の所得要件の算定式の分母に含める意向を一度表明しました。ですが、香港における多国籍企業は、持株機能、貿易、販売、飲食、その他サービス業ならびにマーケティング活動など、非常に幅広い業務を展開しているため、現存の香港法人を生かすことも視野に入れ、「セーフ・ハーバー・ルール」適用に関心が高いのでは、と推測されます。これに呼応する形で、後日香港税務局による実務解釈指針(Departmental Interpretation and Practice Notes、DIPN)が発表される予定です。 以上、香港における「適格CTC優遇税制度」に係る勘案すべき項目を取りまとめました。シンガポールの「適格FTC優遇税制度」と比較しても、香港の「適格CTC優遇税制」の方が適用要件に柔軟性があり、税メリットの面でも勝っている点が設けられています。これによって、今までの中国大陸の加工貿易ありきの香港のイメージを払拭し、世界最大の人民元オフショアセンターとして国際競争力がさらに高まり、多国籍企業のグループ会社の地域および財務統括拠点として、「適格CTC」の設置が進み、合わせて専門人材に対する需要が拡大することが期待されます。また一方で、内国歳入庁による先述のDIPN公表により、さらなる譲歩的な内容が見られるかが、一つの大きなポイントとなると考えられます。

 

本記事の執筆者

NAC Global Co., Ltd.
村田 学

和歌山大学経済学部卒業後、外資系大手金融企業、大手メーカーで、経理・財務を中心に幅広い実務経験あり。北米での勤務経験で、米国会計・国際会計に通じているとともに、サーベンス・オクスリー法に基づく内部統制全般に関する業務にも実務経験がある。米国公認会計士。

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