【海外の人材マネジメント特集】企業買収後、新たな人事制度構築への挑戦 | アジア 人事管理 人材マネジメント進出企業インタビューならヤッパン号


MIMS Pte Ltd 企業買収後、新たな人事制度構築への挑戦

MIMS Pte Ltd Chief Executive Officer 坂井康展

MIMS Pte Ltd 企業買収後、新たな人事制度構築への挑戦

海外における企業買収の結果、人事制度・評価軸がまったく異なる企業をマネジメントすることとなった坂井氏。事業内容に適した新しい形の人事制度再構築に向けて挑戦を続けておられる坂井氏に、その経緯や工夫点などを伺った。

海外における御社の概要についてお聞かせください

当社はアジア・オセアニア・中東16カ国にて、50年以上にわたって医療情報サービス・製薬企業向けマーケティングサービスを提供しています。大きく5つの事業を展開しており、製薬会社向けの事業が3つあります。1つ目は、医薬品のデータベース事業です。創業した1963年から、国ごとに承認されている全医薬品を集め続けてデータベース化しています。現在13カ国で展開し、240万以上の医療従事者会員にご利用いただいています。2つ目は、その会員の方々向けのデジタルマーケティング事業です。医薬品のデータベース事業を通して獲得したドクターユーザーに対して、製薬会社や医療関係の方がリーチしたいニーズがあるため、医療版のFacebookやLinkedInのようなプラットフォームを提供しています。3つ目は、医薬品メーカー専門の広告代理店事業です。完全受託型の事業で、広告・プロモーション、イベント企画などを行っています。 その他、病院システムの中でドクターが薬を処方する際のエラーを自動で検知し予防するシステムの開発提供と、医療従事者向けの就職・転職の支援事業を行っています。 国ごとに医療制度は異なるので、全ての事業を16カ国で展開するのではなく、国ごとに適した事業を提供しています。

―MIMS社買収の経緯、効果についてお聞かせください

株式会社エス・エム・エス(以下SMS)は、「高齢社会に適した情報インフラを構築することで人々の生活の質を向上し、社会に貢献し続ける」という企業理念のもとに、2003年に創業しました。高齢者が増え、医療従事者が減少してきている現状を課題と捉え、高齢社会向けの情報サービスを提供し、創業以来増収増益を続けている企業です。将来的には日本国内の高齢者数自体も減少していくことを見越して、創業2年目から海外に人を送り、小さな買収を繰り返して、東南アジア地域で事業の軸足を作れないかと模索し続けてきました。 その過程で、域内のどの国をみても、医療業界においてはMIMSという今私がいる会社が既に勢力を広げていることが分かりました。その折に、2015年に買収のチャンスがあり、三井物産がパートナーとなってくれて、共同で買収を実現しました。そして昨年、SMSの100%出資となりました。 買収の狙いとしては、アジア・オセアニア地域にて、SMSが日本で展開している医療、ヘルスケアの軸でサービスを提供する事です。買収時の方針として、医療は国毎に制度環境が大きく異なり、また経済発展度合いによっても求められるサービスが異なるため、当地ですでに成立している会社を買収して、既存の土壌を活用してそこで新たな事業を展開したり、SMSの持つノウハウを注入しながら拡大させていくというものだったので、そこは他の買収事例とは違う点かもしれません。実際、冒頭で当社では5つの事業を展開していると話しましたが、そのうち1つは日本でSMSが強い事業を持ち込みましたが、それ以外の4つは買収当時からMIMSにあった事業を定義し直し拡大・推進しております。 海外で新しい事業を始めることは難しい側面もありましたが、SMSが日本で圧倒的強みをもつ医療従事者向け人材サービスを、MIMSの当地での圧倒的なブランド力と医療従事者の会員基盤を組み合わせることで強い事業を築きつつあります。

 ―買収後、組織管理において苦労した点はありましたか

従業員数は、25カ国を超える多国籍な社員約650名が揃っています。日本人は10人強で、責任者クラスとスタッフクラスとをバランス良く配置しています。 買収前のMIMSでは、事業は国ごとに最適化され、カスタマイズされていたため、国間の連携やコミュニケーションはほとんどありませんでした。 買収後は、国横断でのデジタルプラットフォームを構築したいと考えていたため、国ごとの独立運営を司る責任者配置を廃止し、グループ全体で事業ごとの責任者Regional Vice President(RVP)を配置し、国ごとの担当者はRVPにReportするようにしました。シニアマネジメントはシンガポール、マレーシア、中国、アメリカ、イギリス、オーストラリア、日本からの出身者で構成され事業特性に合わせたベストな人材を国籍問わず配置しています。SMSのカルチャーがそうなのですが、理念・ミッションでつながった事業責任者を事業ごとに立てて、裁量を多く渡し、経営者のように経営を主体的にまわしてもらうことで、環境変化・多様性の大きい事業環境において迅速柔軟に意思決定しつつ、長期での方向性はつながっていくというやり方をMIMSでも模索しています。 買収後に様々な難局がありましたが、中でも最も大変だったものは、各国独立運営していた組織をRVP主導で国横断で統合していく過程でした。事業環境や文化・言語からくるギャップはもちろん、それまであった各国側にあった「主権」を取り上げる側面もあったため当初は反発もありましたが、ローカルとセントラルのバランスの重要性を説き、今後更にデジタル投資が必要となる未来を見据えると今のローカル中心では限界があることを理解してもらうことで、やっと一山越えた感じです。 

―多国籍なスタッフがいらっしゃる中で、人事スタッフの育成・国を横断した人事評価はどうされていますか?日本人の人事の方が担当しているのですか?

人事は、シンガポールにいる中国出身の人が責任者となり、グループ全体を見ています。人事は人を相手にしていますから、不満やクレームに対して、その国の制度・文化理解をした上で、その国の言語できっちりと話さないといけないので、日本の親会社の人間が来て、すぐにできることではありません。そのため、日本の人事責任者が、こちらの人事責任者と一緒になって人事組織を運営しています。 彼らを中心にまず最初に手掛けたのがグループ横断での人事制度の導入です。当時あった国ごとの人材管理ではなく、グループ横断の人事制度で、キャリアレベルの縦軸(スタッフ、マネージャーなど)と職種の横軸(営業、IT、マーケティングなど)で役割や能力要件、報酬体系を定義する構成で、これによりグループ全体での人材管理・育成が可能になりました。今後は、事業ごとの特性に合わせてさらに人事制度をブラッシュアップしはじめています。事業と国の組み合わせが多いため、例えば、国ごと、職種ごと、事業ごとに設定してある報酬テーブルは数十パターン用意してあり、人事業務は大変ですが、マーケットニーズに応えられるようにしています。 更に、国横断で事業を統括するシニアレベルには別の報酬パッケージを用意しており、グローバルで戦える組織を作れるよう、試行錯誤を重ねております。手間はかかりますが、買収以来、売上は十分伸びていますので、こういった目に見えないところへ投資して基盤を固めていくことが大事と考えています  

―坂井様のご経歴と人材マネジメントにおいて大切にされていることをお聞かせください

ニューヨーク州立大学を出て、アクセンチュア株式会社で6年間コンサルティングを経験し、健康機器メーカー株式会社タニタの子会社である株式会社タニタヘルスリンクの社長に就任しました。IoTやクラウドサービスなどの複数事業の立ち上げ、事業黒字化を実現した後に、SMSへ移り、SMSではヘルスケア事業部本部長として2年事業開発に従事し、MIMS買収と同時にシンガポールに移りMIMSグループCEOに就任しました。あと数ヶ月で5年目に突入します。 学生時代をアメリカで過ごしていたので言語に対する壁を感じることは比較的少ないですが、文化や国の経済レベル、異なる職種のスペシャリスト達と一緒に仕事をしているので、「仕事に求めるものが異なる」という想像もしていなかったような視点で最初は戸惑いを感じていました。日本では、仕事の「やりがい」や「社会貢献」がキャリア選択時の重要な軸の一つになっていて、成長できる仕事、やりがいのある仕事を求める傾向がありますが、この軸を重要視しすぎたために戸惑うことがありました。ある国で、実績を出していて更に成長を見込める社員を昇進させ、より重要で面白いポジションにつかせたことがあったのですが、過去の実績の対価と重要な仕事に見合う対価をダブルで求められ、昇給額が少なすぎるので転職する、という事故を起こしかけたことが何度かありました。日本の総中流社会と異なり格差の大きな国の社員の感覚だと、上司部下の給与差が日本と比べ物にならないほど大きいためか、仕事のやり甲斐は必要だが金銭のインセンティブがより重要であると言い切ることに抵抗の無いカルチャーがあるということ、肌で感じるまでわかりませんでした。 また、褒め言葉を褒め言葉として受け止めてくれなかったり、改善を要求するネガティブなフィードバックを真逆に受け止められることもありました。 こうした経験を通して多くのケースを学び、かつ一人ひとりと個人の状況や国・文化背景を理解した上で深いコミュニケーションをとれるようになったことで、意図したことが意図した通りに伝達しあえるようになってきたと思っております。 また、グループ横断の事業責任者や各国の事業責任者は国籍に関わらずその道のプロで事業を回していくことを大切にしています。例えば日本のメーカーが海外進出したケースでは日本の工場や設計部門とのパイプが必要になり、日本人駐在員が重要な役割を担うケースがあるかもしれませんが、当社が戦うフィールドは、国別に医療制度が異なり商習慣が異なるため、現地のプロが事業を回すことが非常に重要だと思っています。日本人でなければ上に行けないというガラスシーリングを感じられるようなことはあっては決してならないと強く注意して日々、仕事をしています。

―最後に御社の今後のビジョンと坂井様の目標をお聞かせください

現在の5事業×16カ国でのオーガニックな展開をより広く、より深く進めていきながらも、常に買収の機会を狙い、事業も国の数も増やしていきたいと考えています。以前は日本起点で買収を行い、経営陣は英語の話せる日本人を送っていましたが、買収後は、MIMSのメンバーとSMSの日本メンバーをミックスしてグローバルの経営メンバーを送れる環境が整いました。そのメリットを活かして、よりアクティブにグローバル経営を進めていきたいと考えています。 5つの事業が全ての国で勝てるとは思っていませんが、多くの事業が多数の国において一定以上強いシェアを持てるという自信があります。特に、医療従事者向け就転職支援事業と、製薬事業向けの事業は比較的どの国でもニーズがあり、当社の強みがある領域であるため、積極的に攻めていきたいと思っています。 私個人としては、世界中から来ている今の事業責任者達と、是々非々でやりあいながら、自分自身をブラッシュアップしていきたいと思っています。その過程でお互いに深く知りあい、磨きあい、私の後任ポジションを今の経営陣やその下の人に奪ってもらい、私自身はより大きな場所へ戦いに行きたいですね  

日本でクラウド勤怠管理システム「キングオブタイム」を開発し、国内シェア トップクラスを獲得したメンバーが、その海外展開として東南アジアへ進出。徐々に人事管理が浸透してきている東南アジアでも勤怠管理システムや人事管理システムを提供し、ローカル企業のクライアントも多数。

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