第2部 各国の基本情報および最新動向
タイ・シンガポール・インドネシア・香港に駐在し現地の日本企業様から日常的に相談を受けている現地日本人スタッフが一同に会し、パネルディスカッション形式で様々な最新情報をご提供しました。
BDOアウトソーシング株式会社
高山重裕 マネージャー
本社側の理解と適切なサポートが必要
今回、BDO Japan Desk メンバーが一同に帰国するタイミングでこのような貴重な機会をいただき、赴任者の方や企業の方に改めてヒヤリングをさせていただきました。その中で一番多く聞かれた事例が「本社側の理解・サポート不足」による離職です。特に、企業として初めての海外赴任者の方は、会社にコミットメントしている方が多く、企業側も「あの人なら大丈夫だろう」と安心し、いい加減な形で送りだしてしまうケースをよく伺います。
結果、赴任者本人は孤独な海外生活の中で会社への信頼を無くし、離職に繋がってしまうようです。
本日は、海外で勤務しているメンバーから体験に基づいたリアルな情報をご提供させていただき、今後の取り組みに参考にしていただけばと存じます。
各国の動向のご紹介
笠井麻友
日本国公認会計士
シンガポール
国土の小さい国のため、外国企業を誘致して発展してきました。そのため、外国企業にとってビジネスをし易い国と言えます。ビジネスは基本的に英語で、世界銀行等の各種ビジネス環境ランキングでは、毎年1位、2位を獲得しています。 最近は、研究開発機能をシンガポールに移転する企業も増えています。また、近隣の東南アジア諸国から旅行者が多く来星するため、シンガポール自体の市場は小さくても、東南アジア市場を視野に入れて、ショーウィンドウ効果を狙いオーチャード通りに出店される企業もございます。 2016年の物価上昇率がマイナス0.5%と経済は少し停滞気味ですが、外国人労働者を雇用の調整弁とする側面があるため、 自国民・永住者の失業率は2.1%と低い水準です。外国人の就労ビザ取得の難しくなってきており、日本企業も例外ではありません。税制は魅力的な国で、法人税率は17%です。
前田 哲宏
インドネシア
人口は約2.55億人でイスラム教を信仰している方が8割以上です。インドネシアではイスラム教が国教ではないかと誤解されている方もいますが、イスラム教は国教ではありません。憲法にて唯一神への信仰が定められていますがこの唯一神は何らかの宗教の神をさしており、特定の神を指している訳ではありません。
言語はインドネシア語です。英語を話せる人はある程度いますが、日系企業が集積している工業団地では英語が苦手という従業員が多いと感じます。インドネシア語は英語や日本語と比較して覚える単語数が少なく文法も簡易なため、長く赴任される方であれば、事前にインドネシア語を勉強することを推奨いたします。
外資系企業は例外なく法定の監査を受ける必要があります。法人税率については一律25%です。政令等が即日公布・施行されることも多々あり、日頃からアンテナを張っておく必要があります。但し、アドバルーン的に打ち上げ無理だったら修正していくというスタンスの場合もありますので法改正があった際は、すぐに対応するというのではなく準備しつつ経過を見守る形がよろしいかと思います。
佐藤淳史
米国公認会計士
タイ
面積は、日本の1.4倍ですが、人口は日本の半分程度の国です。民族の大半はタイ族ですが、中華系のタイ人の方もいます。中華系タイ人の方の方が裕福な人が多く、良い大学を卒業して学力が高い方が多ため、日系企業様では中華系タイ人の事務職での採用が多く見られます。
宗教は仏教ですが、国王を非常に尊敬しています。不敬罪があり、いまだに実行刑を受ける例もあります。タイ人個人の支持政党についても出身地や社会的な階層主義を反映するものと言われていますので王室の話題と同じくあまり立ち入った話をしない方が賢明です。
就業者の40%は農業に従事しています。政府としては、製造業のGDPを高めていきたいという意向です。実質GDP成長率は3.2%ですが、ここ数年間不景気が続いており、自動車産業においては2年前のピーク時と比べ生産台数が半分程度に落ち込んでいます。
法人税率は20%です。ここ数年で30%から段階的に20%まで下がってきています。おそらく今後はしばらく20%で落ち着く見込みです。
治安は、以前デモ等ありましたが、軍事政権になってからは落ち着いています。
吉岡 秀幸
日本国公認会計士
香港
面積は東京の約半分で約729万人の人が住んでいます。実際には森林や山が多いため、人が住める場所はさらに小さくなり、人口が密集している都市であります。言語は広東語が主に使われており、英語も公用語で、さらに普通語(いわゆる中国語)も多くの人が話すことが出来ます。ビジネス等で広東語、普通語を話す人がいない場合は、通常英語が使われ、私が働くBDO香港でも英語が使われています。主要産業は金融業や不動産業となっており、その理由は法人税率が16.5%と非常に低い点にあります。物価上昇率は現在3%で私も赴任してから物の値段が上がっていることを実感しています。香港は中国の一部ですが、一国二制度となっており2047年まで経済や法律の自由が保障されています。日本企業の進出状況は落ち着いています。中国の人件費上昇に伴い、撤退されている企業も増えています。また、オフィス賃料は引き続き上昇しており、今のところ下落する気配はありません。
赴任者の生活環境について
住環境
(司会 高山氏)
どの国も家賃は総じて高く、日本の人事部の方から国内勤務者との公平性という観点でよく質問を受けますが、現地でのセキュリティーという観点もあるかと思います。現地の状況を教えてください。
(インドネシア 前田氏)
赴任者の場合、サービスアパートメントかアパート(日本でいうマンション)のどちらかに住むことが多いです。帯同の場合、2~3ベッドルーム、120-170平米くらいで家賃は少なくとも20万円ほどかかります。多くは家具付で貸出、設備はジム、クリーニング、コンビニ等があり、守衛、コンシェルジュが常駐しています。また比較的安価にメイドを雇うことができるため、メイドを利用している方も多いです。
就学児がいる場合は、日本人学校から近いまたは送迎バスのルートから近いかを確認したほうがよいと思います。ご存知かもしれませんが、ジャカルタは世界有数の渋滞が酷いエリアです。30分でいける所でも2-3時間かかることがよくあります。
なお、住居については値段が高いほうが安全ではありますが、だからといって完全に安全が確保されている訳ではありません。実際に、日本人女性が守衛さんに殺害されてしまった事件は、一番費用がかかるアパートで発生しています。殺害というケースはさすがに稀ですが、守衛に不審なことをされたという話は友人からも聞いたことがあります。何かトラブルにあった際は、守衛に相談するのではなく、まず会社に相談するように案内をした方がいいかと存じます。
(香港 吉岡氏)
家賃相場は世界でトップクラスに高いです。45平米くらいの2LDKで月35万円くらいします。3LDKだと、月50万円くらいになります。貸主(大家)は個人の場合が多く、家に何かあった場合の対応は大家さんによって違いがあり、当たりはずれがあります。治安は非常によく、夜飲みに行って帰りが遅くなって危険な目にあったという話は聞いたことがありません。地下鉄も深夜1時くらいまであります。
食環境
(司会 高山氏)
日本食または日本の食材は、どの国も比較的手に入るようです。しかし、輸入品は総じて高いため、赴任者の方は日本食を毎日食べようと思うと想定以上に出費がかさんでしまうようです。現地の食生活の状況を教えてください。
(インドネシア 前田氏)
日本食・インドネシア料理の店を問わず、店内が清潔であり、人気店であれば比較的安全です。しかし清潔でも人気店ではない場合は、材料の鮮度が悪い、または適切に調理されていないため食後に体調を崩す可能性があります。そういった事を避けるために人が多く入っている等、人気のある店を選ぶのは一つのポイントかと思います。
インドネシア料理は辛いイメージがありますが、首都のジャカルタの大半はジャワ人のため、ジャワ料理は甘めで比較的食べやすいです。日本食料理店は多く、価格帯は中、高価格帯で選択肢は多いです。品質はピンからキリですが、日本人従業員の有無で、差は比較的大きく感じます。アルコールは規制の関係でビール以外は極めて高く、焼酎・日本酒などは約7-8000円以上してしまいます。
日本の食材は入手可能ですが、輸入品は基本的に高く、日本と比較して2~3倍ほど高いです。
(香港 吉岡氏)
日本の食材は各国と同じく高いです。例えば、日本の豆腐が600円くらいしてしまいます。ローカル料理は、やはり中華料理が多く、その他タイ料理、インド料理も多いです。家で食事する際は和食が多いのですが、スーパーやマーケットの測り売りでも野菜は購入します。野菜は中国本土からも来ますし香港産もあります。
中国からの野菜という点で安全性を不安に思う声を聞きますが、香港政府は厳しい基準でチェックをしているとのことで、個人的にはあまり神経質になる必要はないのかなと思います。勿論、日本人の中には日本産にこだわる方もいらっしゃいます。
医療環境
(司会 高山氏)
医療環境は、安全配慮義務を果たすうえでも、日本本社は押させておくべき事項かと思います。医療機関の特徴と留意点について教えてください。
(シンガポール 笠井氏)
医療水準は世界でも最高水準の国の一つと言われています。一般医と専門医の二階層制度で、現地の方は、公営のポリクリニックと呼ばれる一般医に行くことが多いです。
一つの公団(HDB)に少なくとも一つはクリニックがあり、夜8時、9時までやっているところも多く、診療費もそれほど高くありません。日本人駐在員は、海外旅行保険を活用してプライベートの日系病院に行くことが多いです。また、24時間の救急病院もいくつかあり、日本人医師ではありませんが、救急の場合にも問題なく医療を受けられます。
日本のような健康保険制度はないのですが、なんらかの民間保険に加入したり、一定額までの医療費を会社負担とする企業が多いです。
(インドネシア 前田氏)
外国人の診療行為が禁止されています。医療機関の種類としては、日系、インターナショナル、ローカルの3つに分類できます。日系やインターナショナルでは、日本語を話すことができる医者や看護婦がいます。風邪や食あたりなどの比較的軽度の病気では、日系やインターナショナルのクリニックにいくことが多いです。重度の病気の場合、設備が整っているローカルの病院にて検査をすることになるかと思いますが、医療費、言語(日本語を話す従業員はいないと思います)や医療水準の観点から日本、またはシンガポールでの治療も検討した方がよいと思います。
(タイ 佐藤氏)
日系の病院はありません。バンコク市内には3つくらい大きな総合病院があります。日本語が話せるタイ人の看護師がいますので、日本人はそちらに行きます。健康上の留意点としては、水やタイ料理(発酵食品がある)等でお腹を壊すことがよくあります。水道水を飲まないことはもちろんですが、切り売りの野菜やフルーツ等も気を付ける必要があります。
毎年雨季には、インフルエンザが流行するので6月の予防接種がお勧めです。
(香港 吉岡氏)
医療水準は高いです。医療機関は、香港政府で運営されているパブリックと私立病院であるプライベートの2種類があります。パブリックは、非常に安価ですが待ち時間が長いです。香港ビザがあれば取得できる香港IDカードをもっていれば、外国人でも利用できます。私事で大変恐縮ですが、昨年妻が現地のパブリックで出産をしたのですが、総額なんと8,000円で無事出産することができました。
プライベートの病院は、値段は高いですが待ち時間は短く設備はとても綺麗です。
健康面の留意点は、湿気が多く、体調を崩しやすい点です。カビ対策として、除湿器や除湿剤(箪笥の中に入れておく)は必需品です。スーツがカビになってしまったことが2、3回あります。
職場環境
(司会 高山氏)
赴任者の方は、ローカルスタッフとのコミュニケーションにおいてもストレスを抱えることが多いと聞きますが、現地の方の特性や留意点を教えてください。
(シンガポール 笠井氏)
シンガポール人の国民性を表す言葉として、“キアス”という言葉があります。これは、「人に負けたくない」という意味の言葉です。同僚を見ていても、「人がやっていることは、自分もやりたい」といった気風を感じます。また、シンガポール政府は、 “Meritocracy”(実力主義、能力主義)をスローガンとして掲げており、企業には、従業員に十分な機会を与え、その働きを正当に評価し、正当な報酬を与えることを期待していますし、従業員の方も、正当な評価、報酬を求める傾向が強いです。合理的で優秀な人材が多いといえますが、雇用政策上、国民の雇用が守られる制度のため、近隣国からの外国人労働者と比較して、シンガポール人は比較的自由に職を選べる傾向があり、その環境に甘えていると感じることも時々あります。
(インドネシア 前田氏)
インドネシア人はプライドやメンツを大事にするので、人前で怒られることを嫌います。特にジャワ人の方は、自分より年齢が若い人から指示や説教を受けることに抵抗があるようです。その為、叱責する場合は必ず別室にて行うか人事担当のインドネシア人に任せる形を推奨します。日本人と違い仕事を指示する場合は、期限を明示したうえで指示しないと仕事に着手しないことも多々あります。また進捗確認を定期的に行い仕事に取り組んでいるのかの確認も重要です。
日常生活の中に宗教が密着しているため、断食等の宗教儀式をしている際は、本人の目の前で飲食をする行為は控えた方が良いと思います。また家族を大事にするので、部下(特に直属)から結婚式等の招待状を受領した場合は出来るだけ参加するように心掛けましょう。参加することにより仕事がよりスムーズになるケースもあります。
(タイ 佐藤氏)
仏教国であり親日国でもあるため、日本との親和性が高く、外国人であることで不快に感じることはほとんどありませんし、そういった話を聞いたことはありません。一般的に大らかな国民性だと思いますが、インドネシアと同じくプライドが高く、人前で怒ることはNGだと思います。
(香港 吉岡氏)
合理主義(仕事として割り切る)、拝金主義的な傾向があります。若いうちはキャリアアップのために転職は繰り返していく傾向があります。個人主義的であるためマネジメントは難しいと思います。勝手に進めたり、相談がなく大きな問題があった場合に突然話が来たりすることがあり、どこの会社も悩まれていると思います。しかし、想像以上に親日国で、日本のアニメ・漫画が人気あります。
現地の制度について
就労規程・VISAの要件確認
VISAの必要な手続きを怠ると、不法就労として処分されてしまい最悪の場合、設立許可・営業ライセンスの喪失という事態にも至りかねません。
そこまでいかずとも赴任者の送り込みに支障が発生してしまうので、具体的な人選の前に詳細な要件は必ず確認する必要があります。
国毎に明示・黙示の要件が多く存在するため、一概には定義できませんが、「学歴」「年齢」「最低給与」「ローカル雇用要件」については事前に確認するようにしましょう。
現地の社会保険制度
シンガポールでは、外国人は永住権保有者のみが加入対象です。インドネシアは、 6ヶ月以上滞在する外国人は、BPJS(医療保険、労災保険、死亡保険、老齢保険、年金)と呼ばれる制度への加入義務があります。タイは、年金、医療保険とも加入義務あります。香港は、公的な医療保険制度はありません。年金に相当する強制退職積立金(MPF)制度がありますが、日本での年金加入者は免除可能です。
各国の個人所得税の確認ポイント
各国での海外駐在員の所得税申告にあたって、個人の居住性の判定が重要です。税務上の居住性は、個人の国籍や住民登録の有無等とは別のもので各国の税法にて定められています。日本と赴任先の国での居住性の定義が異なるため、両国で居住者に該当するケースもありますが、その際には日本と当該国との租税条約を参照して居住性を判定します。次に、課税所得の範囲も国によって異なります。例えば日本やインドネシアでは、居住者は全世界所得を申告する必要がありますが、シンガポールや香港では原則としてシンガポール・香港の国内源泉所得のみを申告し、日本での不動産収入など、日本源泉所得を申告する必要はありません。また、海外駐在員には、留守宅手当・ハードシップ手当等の諸手当、住宅・車・保険等の現物支給など、給与以外に様々な支給があることが一般的ですが、課税所得に該当するかどうか、各国によって異なるため、各国の税制を理解することが重要となります。また個人所得税を会社負担とする場合、期末決算や資金繰りへの影響を考慮する必要があります。各国で異なる税制を理解するのは大変ですが、思わぬ落とし穴にならないようご留意頂ければと思います。
子会社管理のトラブル事例(シンガポール)
シンガポールの税率は低いが、罰則が重いので注意が必要。
(シンガポール 笠井氏)
日本人スタッフがいない会計事務所からBDOへ税務の引き継ぎをお受けした際の事例です。厚生年金基金の会社負担分について、赴任中も日本本社が継続して負担していたにもかかわらず、当該金額をシンガポールで申告すべき個人所得に含めていませんでした。
修正申告は、過去4年分遡って行う必要があります。既に帰国した赴任者の分を含め駐在員全員の4年分の申告書を調べなおして“自主的な修正申告”制度を利用しましたが、申告を修正するほか申告漏れの発生理由や今後の防止策等もあわせてIRASに提示・宣誓する必要があり、日本企業様は多大な労力を費用を費やしてしまいました。
専門家 × ITで企業の海外展開を支援するクラウド型国際会計アウトソーシングサービスのご紹介。
「仕組み」を構築し、海外子会社の現地化を実現。
東洋ビジネスエンジニアリング株式会社
春山 雄一郎
海外駐在員の方は、本来の専門業務に加えて会社のマネジメント業務をしなければならず、負担・ストレスを多く抱えていらっしゃいます。その負担を軽減させ本来の専門業務に注力して欲しいという思いから開発されたサービスがGLASIAOUSです。また、ブラックボックスに陥りやすい現地の会計をリアルタイムに本社側で共有することで適切な会計管理を実現させます。「海外子会社管理、駐在員の働き方改革、海外拠点業績拡大」に対する一つの現実的な選択肢として、GLASIAOUSをご検討頂ければ幸いです。
海外進出企業を対象とした、クラウド型国際会計アウトソーシングサービス
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