2017年12月23日(土)フィリピン・ダバオの4階建てのモールで火災が発生し、38名の方が亡くなるという痛ましい火災事故が発生しました。現時点まで関係当局による詳細調査結果は公表されていないものの、報道によれば施設の安全管理上の問題などが指摘されています。本稿では、2018年1月13日時点までに報道された情報をもとに、今回の火災被害に繋がったと推定される問題点などを整理し、それに基づきモールなどにおける安全対策のチェックポイントをまとめます。
1. 火災事故の概要
日時 :2017年12月23日(土)午前9時30分ごろ出火
場所 :フィリピン・ダバオ(ミンダナオ島)のNCCC Mall
施設概要:New City Commercial Corporation (NCCC)が運営する4階建てショッピングモール。スーパーマーケットやレストラン、映画館などのある複合用途建物。最上階の4階にコールセンター業務を行うSurvey Sampling International (SSI)が入居。
12月23日 9時30分 開店前の3階の生地売場・家具売場から出火。
10時5分 消防当局が火災通報を受信。
10時11分 消防車などが現場に到着し、消火・救助活動を開始。
12月24日 17時15分 消防当局が、鎮火したと発表(なお、翌日朝まで、残り火の消火作業は継続した模様)。ほぼ32時間燃え続けた。
出火原因:電気設備の不備(ショート)と推定されています。
被害概要:死者38名のうち37名は、SSI社の従業員(SSI社は500人の従業員のうち37人が亡くなった)。火災当時建物内にいた783人は無事避難。
2. 被害拡大に繋がった主な要因と安全上のポイント
火災原因や被害の拡大要因など様々なことが報道されている一方、当局による詳細の調査結果報告が待たれる段階です。報道ベースではありますが、現時点で留意したい着眼・安全上のチェックポイントについて整理致します。
(1) 出火原因は、生地売場と家具売場の間の天井内の電気設備・配線のショートであると推定される。
・東南アジアでは、施工品質の問題、多くの地域で高温多湿の環境であることやネズミなどの小動物に起因して電気火災が発生している。
・電気設備・配線は出火源になりうると認識し、定期的な点検を実施する。
・日常の管理の中で電気設備に近接して可燃物を置かない、電気パネル内やコンセントの汚れを放置しないなどの基本対応を行う。
・特に10年以上経過した配電設備では、ケーブルの絶縁測定を定期的に行う。
(2) 非常口が施錠されていたとの報道がある。
・セキュリティのため、非常口を施錠している施設は、弊社がリスク調査を行う際にも見受けられる。
・テナント従業員を含む避難訓練を年1回は実施し、その際に避難経路を確認・理解する。
・いずれの場所においても2方向避難経路が確保されていることを確認する。避難経路に物が置かれて避難に支障をきたさないようにする。
・セキュリティ対策で非常口を施錠する場合でも、営業時間中は開錠(できるように)する。やむをえず夜間施錠する場合でも開錠漏れがない運用(チェックリストの利用など)とする。
(3) また、防火戸の材質が適切でなかったこと、階段室のドアが開いたままであったことから、煙と熱が急速に広がり、避難の妨げとなったとの報道がある。今回の犠牲者の多くは非常口を利用できなかったため逃げ遅れ、ロッカールームエリアで亡くなったと報道されている。
・階段室のドアが適切な防火戸であるか(仕様の確認)、ドアフレーム部との間に隙間などがないか確認する。自動閉鎖機構のない防火戸の場合、日中は、楔などで開口状態で保持していないか確認する。
・排煙設備を備えている施設の場合、それが適切に機能するよう維持管理する。
(4) 生存者の報告によればスプリンクラーや自動火災報知設備は機能しなかった。また、SSI事務所にはスプリンクラーと火災報知器が設置されていたが、モールの設備と連動していなかったため、下階での火災に気付くのが遅れたとの報道もされている。
・消火設備は、まず適切に設置することが大前提ではあるが、故障や保全作業で一時的に消火設備が機能しない(全体、あるいは部分的に)状況も生じることがある(保全作業のため、3階のスプリンクラーのバルブが長期間閉じられていたままであったとの報道もあり)。
・消火設備の自主的な日常点検を実施する。また専門業者による点検も定期的に実施する。
・故障などを発見した場合は、速やかに保全作業を行う。保全作業をいつまでに終えるか明確にするとともに、日々の保全作業終了時の復旧対応も確実に行う。
・消火設備が機能しない期間・時間・エリアを、施設担当だけでなく、テナントを含む従業員にも理解させ、当該エリアでは通常時よりも注意を払うとともに、万一火災が発生した場合の初期対応、避難(誘導)対応を確認しておく。特に警報設備が機能しない場合の建物内連絡手段についても確認する。
(5) 防火訓練は行われていたものの、参加者が限定的であり、実効性のある訓練ではなかったと調査当局は見ている。現場にいたモール関係者はパニックを起こし誰も消防へ通報しておらず、消防署は火災発生から35分経過後に火災警報を受信したことで火災の発生を認識したと報道されている。
・施設管理者は、緊急時対応組織(Emergency Response Team/ERT)を組織する。ERTメンバーの役割(初期消火、通報、避難誘導など)の役割・手順を明確にする。
・ERTメンバーを中心に最低年1回の防火訓練(避難訓練を含む)を実施する。
・テナントとの間で定期的な会議を実施し、その中で安全、防火、緊急時対応に関することも周知する。
・防火訓練には、各テナントからも極力参加させる。参加できないテナントについては、内容を会議などの場で周知する。
・訓練の結果を振り返り、課題・問題点を改善するPDCAを確実にまわす。そのことを施設の管理責任者は確実にフォローする。
(6) 事故直後に市消防当局の幹部は「これまでの定期検査において違反事項は発見されていない。」とコメントしていたが、市消防当局が適切に検査を実施していたかについて疑念の声が上 がっている。12月31日に市消防局幹部は解任された。調査チームはモール管理者が防火基準を満たすことを怠っていたとの見方を強めている。
現時点で未確定な報道情報を元に整理した安全上の着眼ではありますが、現状の安全確認の参考としていただければ幸いです。
【2018年1月22日作成】
東京海上グループのグローバル対応について
東京海上は、1879年の創業時から釜山・上海・香港で、翌年にはロンドン等で営業を開始するなど、海外展開は130年以上の歴史を有します。1945年の敗戦により、いったんすべてを失いましたが、戦後は日系企業の海外進出とともに海外展開を拡大しました。更に2000年以降は、アジア等新興市場でのM&Aを通じたローカルビジネスの拡大、高格付けを活用した再保険ビジネスの拡大、さらには、キルン、フィラデルフィア、デルファイといった欧米における大型買収実施により、海外事業は今やグループ収益の30~40%を占める中核の事業となりました。現在は、38の国・地域に海外拠点があり、駐在員数270名、現地スタッフ数約23,000名、クレームエージェント数は、約250(サブエージェントを含む)の体制でグローバルに対応させて頂いております。現在の進出国・地域に関しては、東京海上日動火災保険の以下のホームページにて、ご確認ください。
http://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/rashisa/global/
本記事の執筆者
東京海上日動火災保険株式会社
松宮 高広
東京海上日動火災保険株式会社 関東業務支援部(東京開発チーム)担当課長