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ドイツに関するコラム

【ドイツの会計事務所・法律事務所が贈る お役立ちコラム】
Brexit 英国欧州連合離脱から見る「ドイツ在籍日系企業への影響」

Brexit 英国欧州連合離脱から見る「ドイツ在籍日系企業への影響」


   
2016年6月24日。ちょうど2週間の日本出張中、新幹線のニュース表示でイギリス国民投票で離脱派が著しく明確に過半数を超えている事を知った。ドイツで会計事務所を経営する私からすれば、イギリス経済に取って何ら利点のないリスクばかりのBrexitは、スコットランド独立の国民投票と同様に否決されると確信し、多くのクライアント企業の役員の皆様に、心配する必要はないと説明したばかりだった。しかし、楽観していたのは、私だけでは無かった。ポンド暴落と円の急騰、株価の暴落そして何より、Brexitリーダーのファラージ氏が23日の晩に「離脱は否決となるだろう」と諦めていたことは、今回の国民投票の結果の意外性を物語っている。

 

Brexitの実際のドイツに進出している日系企業への影響を考えるには、先ず「なぜイギリス国民はEUから離脱したかったのか」その目的を考える必要がある。彼等は、主に次の三つの理由をEU離脱の必要性として挙げている:

① 移民政策に対しての不満。特に難民受入に対しての不安と欧州連合加盟国の市民が自由にイギリスに入国し、イギリス人の就職口を奪う懸念。

② 欧州連合にイギリス人の血税を拠出し、南国や小国を援助するのでは無く、イギリスの健康保健制度に費やすべきという考え。
※しかし、EUから離脱すれば直ぐにでも3億ポンドが健康保健制度に充当できるとまで言っていた離脱派の非現実的な公約は、離脱可決と共に撤回された。

③ 抽象的にイギリスの欧州連合から独立と国家主権を取り戻すこと。

自由貿易の障害

Brexitに関して日系企業が一番気になるのは貿易に関してだ。Brexitに関するコメントには、「関税が導入されるから貿易縮小し、多くのドイツ企業に悪影響が懸念される」という意見も多いようだが、輸入に依存しているイギリスが関税によってEUからの輸入品価格を高くする事は少し考え難い。もともとBrexit支持派の代表も、EUとの自由貿易撤廃は示唆しておらず、経済的にはEUと今後も密接に協力し合うと強調していた。逆にEUにとってもイギリスは、大きな輸出先であるため、自由貿易が出来なくなればEU全体の経済にも大きな悪影響が及ぶと予測される。イギリス・EUの双方にとって、関税が導入されることは避けたいところである。

そうなると、イギリスはEUとの自由貿易協定を早急に締結するという流れが現実的なところだろう。スイスやノルウェーのようにEFTAに加盟するという考えもあるが、①と②の離脱目的に反するために可能性は低い。

 

一方で、イギリスはEU加盟国でなくなると、米国&中国&日本などとは、直接、自由貿易協定を締結しなければならなくなる。EUは、なるべく早く離脱の条件交渉を開始しするとプレッシャーを掛けているが、日本などと自由貿易協定の交渉が順調に進まなければ、EU離脱が先に実現してしまい、イギリス=日本間の貿易に支障が生じる可能性は十分ある。

そうなると、仮に関税が導入されないとしても、第3国への輸出&輸入となる場合、税関での手続きが従来よりも煩雑となり、イギリスからの輸入は輸入税が発生する事になる。そうすれば、コンプライアンスコストの上昇と資金繰りに影響がでてしまう。

また、イギリスがEUにとっての第3国になれば、英国企業は非居住者としてドイツで輸入できる回数が年10回に限定される。更に、輸入手続きはATLASシステムを使用しなければならない。

 

1~2年の間は貿易の枠組みの現状は維持されるだろうが、ポンド安と円高、マーケットと消費者の不安による景気後退のリスクが高いのは、誰もが感じていると思う。リーマンショックに相当するかそれを上回る世界的大不況につながる可能性があるとまで言われているほどだ。日系企業は、これらのリスクに対応する事が急務であり、それは公認会計士が言うまでもない。

イギリス市場は、単一市場の参加者であった為、EUの安全規制など数多くの技術的なスタンダードが適用になっていた。今後は、EUから独立している為、これらのスタンダードの遵守又は独自のスタンダードを導入するかは英国の自由な判断である。 英国は43年ものEU加盟国の実績で今さらに保護する産業はないため、日本で色々な分野で見られるガラパゴス化は余り心配する必要はなさそうだ。

税制度への影響

法人税や所得税のいわゆる直接税に関しては、欧州連合では統一した制度はない。各国、独自の税制度を維持していてドイツと英国間の租税協定、日本と英国の租税協定は基本的に今回のBrexitで影響は受けないと見ている。これら直接税の分野ではEU委員会の移転価格税制度の文書化、BEPSの分野では今後、英国は単独のルールを設ける事になる。どの程度、EUと歩調を合わせるかは英国の判断となる。

将来的にEU加盟国間の利息とロイヤリティに対する源泉税のゼロレート適用が、継続されるかは未定。

EU域内の国境を跨ぐ組織再編に伴う課税のるルールは、親子会社間司令で調和されているがこれも改めて英国が認める事を依頼しないと新しい英国対EU加盟国のルールを協議しなければならない事になる。

 

EU離脱で税務面で最も大きな影響があると思われるのはVATの分野である。EUVAT司令で基本的に共通な構造が導入されているが離脱後、英国はEU域内の非課税取引に関する運営ルールは適用できなくなる。例えば三角取引ではEU域内の3カ国のVATIDを適用して商流をVAT無しに扱う事で企業が他国でのVATID登録が免除となる仕組みは英国のVATIDがEUでは無効になる為、英国の企業は場合によっては多数のEU加盟国でVATIDを取得しなければいけないケースが増えると予想される。特にチェーン取引と称する3社以上が関与する商流を全てVATID登録義務に関して分析しなければならない。同様に日系企業(ドイツ在籍、ドイツVATID取得済みの日本法人、イギリスVATID取得済み日本法人と色々なケースが考えられる。)も現在はイギリスにVATIDは必要ない商流でも将来はVATをイギリス、又は他のEU加盟国でVAT申告する事になりかねない。イギリスの場合は、EFTA加盟国のスイスなど同様な密接な関係は期待出来ない為、VATに関してはEFTAよりも優遇される関係が構築される可能性は低いと思う。VATコンプライアンスは、多少は変わり複雑化し、企業はVAT支払いの建て替えのファイナンスの負担が増す可能性も想像できる。

英国の投資環境

イギリスは、英語圏であり、EU加盟国であることから日系企業の進出を仰いでいたが、今回のBrexitにより、将来、重要な立地としてのメリットを失う可能性がある。医薬品業界からは欧州全域の製薬認可は得られない英国の統括会社は、大陸ヨーロッパへ移転する事を具体的に検討している日系製薬会社のケースが既に耳に入ってきている。英国市場はドイツよりは小さい為、販売会社のみを残す事はリストラしなければと悩みも浮上してきているそうだ。

 

金融市場は大きな変革に見舞わせられると予想される。ユーロ通貨統合には参加していなくてもロンドンシティは欧州の金融の中心となったがEU加盟国である事は大きく貢献していた。某邦銀は、イギリスに現地法人を設立し、大陸ヨーロッパにEU支店で活躍している。その前提条件はEU加盟国の銀行免許であり、改めて各国で免許を申請しなければならないと予想される。又、果たしてEU支店と同様な緩和的な優遇措置が認められるかも未定だ。フランクフルトとロンドンの証券取引所の合併はイギリスに本社を設置する方向で進められて来たが実行されるか議論されている。

英国渡航への影響

我々日本人に取ってはイギリスがEU加盟国でなくても入国手続き、滞在許可の必要性に関しては影響は余り無いと思われるが、EU市民に関しては冒頭にそもそものBrexitの理由に触れた通り、移住は困難になる事が予想される。EU市民の移住の自由は、適用にならなくなる為、お互いに手間がかかる事になる。ビサが必要になるか否かは今後は27カ国が相対で合意しなければならない。

余談ですが、プレミアリーグのEU加盟国出身のサッカー選手は皆、労働許可を申請しなければならない事になり、現行の制度を変えなければ欧州域内の選手の移籍は大きく妨げられる。プレミアリーグが絶滅するとまで言われているが、さすがに現実的なシナリオでは無いと思う。少なくともイギリスはサッカー選手の受入に関しては自由に現行の法制度を変更する事は可能。23日前、英国サッカー協会は、EU離脱が決まれば英国4チームは任意にユーロを棄権すると宣言していたがそのような動きは見受けられない。サッカーはきっと特例で大きな影響を受けないと期待している。

まとめ

Brexitは世界経済に大きな打撃もたらし、それは具体的な独立(孤立)しているイギリスの経済的枠組みの構築で不安は軽減されると思われる。日系企業は先ずは円高、ユーロとポンド安とマーケットの下落、景気後退懸念とビジネスに取っては大きなチャレンジが待っている。イギリスは当面はEU加盟国であるがその先には、コンプライアンス面で新たなEUとの枠組みが多岐に渡って導入される為、それに対応する負担が、EU加盟国の日系企業及び英国在籍の企業に迫ってくる。

Brexitが現実になるとは離脱派も信じていなかった事は、彼等が具体的な今後のEUとの枠組みを模索していない事からも良く分かる。キャメロン首相が10月まで続投するのも時間稼ぎにしか見えない。又、Brexitのリーダー的存在であったJohnson元ロンドン市長とUKIP政党の党首Farageが次期首相の立候補を断念してEU離脱の具体的な実行を拒否しているのも興味深い。

 

今後のEUとイギリスの新枠組みの動向は、興味深いですが我々コンプライアンスの専門家はその交渉の結果と運営ルールが合意されてから出番が来ると思います。その際は、皆様にアドバイスを適時にご提供致します。尚、欧州進出をご検討している方には、新枠組みが出来てから立地の比較を行うかドイツに進出する事をお勧めするしか無いと思います。ドイツはイギリスが脱却したEUの加盟国の中でフランスが不安定である事から圧倒的にパワーがあり、日本企業が最も進出しやすいインフラが整っています。今迄、立地条件比較でイギリスに負けていたドイツから日本への配当とロイヤリティの支払いに対しての源泉税が、新日独租税協定の可決で2017年から撤廃となったお陰で、今やイギリスを含むEUの中で、日本企業の展開としては、ドイツが全体的に有利になっているのではないだろうか。

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